「高い」の正体——比べているのは初期見積りだけ
フルスクラッチとパッケージを比べるとき、多くの方が見ているのは導入時の見積り金額です。パッケージのライセンス料と、フルスクラッチの開発費。この一点だけを比べれば、フルスクラッチの方が高く見えるのは当然です。
しかし、システムの費用は導入時に終わりません。パッケージ側には毎年のライセンス料・保守料、業務に合わせるためのカスタマイズ費、そしてサポート終了(EOL)が来たときの再導入コストが待っています。フルスクラッチ側にも、進め方を誤れば途中の作り直しや、リリース後の頻繁な修正が積み上がります。
つまり、比べるべきは初期費用ではなく10年単位の「総額」です。そして総額を最も大きく左右する変数が、次にお話しする「手戻り」です。
費用を最も膨らませるのは、開発ではなく「手戻り」
システム開発の費用が想定を超えるとき、原因のほとんどは開発作業そのものではありません。手戻り——つまり、作り直しです。
手戻りが怖いのは、単発の追加費用では済まず、連鎖するからです。
上流工程の曖昧さは、下流工程に進むほど高くつきます。要件の1行の曖昧さが、設計・実装・テストの何倍もの工数となって跳ね返る——これが「手戻りコスト」の構造です。
逆に言えば、手戻りを起こさなければ、フルスクラッチの総額は大きく下がります。当社が「曖昧な要件定義をしない」ことを最重要工程に置いているのは、品質のためだけではなく、費用のためでもあるのです。
POINT 費用を膨らませる最大の要因は「手戻り」。手戻りを前提にしない進め方こそが、最も効果の大きいコスト削減策になる。
そもそも「ゼロから作る」わけではない——費用を抑える3つの仕組み
もう一つ、「フルスクラッチ=高い」というイメージの根っこには、「何もないところから全て手作りするのだから、工数が膨大になるはず」という前提があります。この前提が、実は誤解です。
仕組み1:共通機能はひな型をFit&Gapするだけ
ログイン機能、2段階認証、権限管理。どのようなシステムを作る場合にも必要となる機能は、いわばパッケージのようなものです。当社にはこれらのひな型が揃っており、御社の好みやセキュリティ要件に合わせてFit&Gap(適合確認と調整)するだけ。この部分に、ゼロからの開発費はかかりません。
さらに、これまでにシンプルな機能から超複雑な機能まで積み重ねてきた開発実績も、次の案件のひな型としてご提案できる資産です。費用が本当にかかるのは、御社のコア業務に固有の部分だけです。
仕組み2:開発プロセスの標準化と自動化
作り方そのものにも、工数と品質のムダを削る仕組みが組み込まれています。
- 設計書ドキュメントの標準化 —— 書式の統一で、レビューも引き継ぎも速く正確に
- ツールによる品質チェック —— 人手のレビュー漏れを機械的に補完し、不具合の混入を早期に検出
- テストのノウハウ・自動化 —— 蓄積されたテスト設計と自動化で、検証工数を抑えつつ品質を担保
不具合は、見つかるのが遅いほど修正コストが跳ね上がります。標準化と自動化は「早く・機械的に見つける」ための投資であり、これも手戻りコストを抑える仕掛けの一部です。
仕組み3:流用できる資産は、そのまま流用する
刷新案件では、既存システムの資産を活かせる場合があります。実際に当社では、自社開発システムの刷新にあたり「既存システムのテーブルやデータは、そのまま活かして、新規システムにしてほしい」というお客様のご要望にお応えした実績があります。
データ構造を引き継げば、データ移行の設計・検証コストとリスクを大きく減らせます。フルスクラッチでも、白紙に戻す必要のないものは戻さない。この柔軟さも、総額を抑える現実的な手段です。
実例:「急がば回れ」が最速で、結果的に最安だった話
「要件定義に時間をかけると、期間もお金も余計にかかるのでは?」——よくいただく疑問です。これに対する当社の答えを、実際の案件でお見せします。
既存パッケージのライセンスが7か月後に終了するため、急遽の刷新をご依頼いただいたケースです。当社は、限られた7か月のうち約半分の3か月を要件定義に割り当てるという判断をしました。そして残る4か月で設計・開発・テストを行い、必要な70機能を無事、期限内にリリースしました。
もし「時間がないから」と要件が固まらないまま設計・開発に走っていたら、どうなっていたでしょうか。途中で仕様の齟齬が噴き出し、作り直しの連鎖が始まり、4か月の開発期間はあっという間に食い潰されていたはずです。期限も、予算も守れなかったでしょう。
急がば回れ。要件定義にしっかりと時間を割り当て、見切り発車で設計や開発を進めないこと。これが、手戻りを無くして最速でシステムを開発する、一つの答えです。そして手戻りがないということは、そのままムダな費用がないということでもあります。
総額で比べる——
リリース後の10年まで含めて
初期費用ではなく総額で考えるなら、リリース後の費用構造も見ておく必要があります。
| 費用項目 | パッケージに業務を合わせ続けた場合 | 手戻りのないフルスクラッチ |
|---|---|---|
| 導入時 | ライセンス料+合わない部分のカスタマイズ費 | 開発費(ひな型・流用でコア業務部分に集中) |
| 運用中 | 毎年のライセンス料・保守料/バージョンアップ対応費 | 継続的な保守料を前提としない運用(当社方針) |
| 業務変化への対応 | 標準機能の制約内。カスタマイズの積み増しで複雑化 | 育てる前提の設計。機能を足し続けられる |
| 製品側の都合 | 値上げ・ライセンス変更・サポート終了で再導入コスト | 製品都合に振り回されない |
| 見えないコスト | システム外のExcel運用・二重入力・転記ミス | 業務の形に合っているため、周辺運用が増えにくい |
当社では、手戻りを生まない要件定義と堅実な設計により、リリース後に頻繁な修正が必要な状態を避けることで、継続的な保守料を前提としない運用を目指しています。また、お客様にとって不要な設計書は作りません。ドキュメントは目的のための手段であり、それ自体が請求項目であるべきではないからです。
「作り直しゼロ」が総額に効く——
長期運用の実績
総額の議論で最後に効いてくるのが、再開発(作り直し)の有無です。システムの寿命が来るたびにゼロから再構築していては、どれだけ導入費を抑えても意味がありません。
2014年に45機能でリリースしたシステムを、10数年かけて450機能以上へ拡張。その間の再開発はゼロ、不具合は年平均で軽微なバグ2件以内です。再構築費用が一度も発生していない、ということです。
また、ある食品会社様では、40機能でリリースしたシステムが5年間安定稼働し、要件定義の不備ゼロ・設計書の不備ゼロを維持しています(初年度の軽微なバグは2件)。最初の土台を堅実に作ることが、10年単位の総額を静かに、しかし決定的に下げていきます。
見積りは「いきなり全体」ではなく、要件定義から段階的に
とはいえ、最初から全体金額を約束するのは、お客様にとってもリスクです。当社のお見積りは、いきなり全体ではなく、まず要件定義から段階的にご提示できます。
要件定義を終えれば、作るものの輪郭が明確になり、その先の設計・開発の見積り精度も上がります。区切りごとに状況を確認しながら進めるため、「よく分からないまま大きな金額を発注する」不安はありません。
よくあるご質問
Q.フルスクラッチの費用は、なぜ高いと言われるのですか?+
Q.要件定義に時間をかけると、開発期間が延びませんか?+
Q.ゼロから作る分、費用がかかるのでは?+
Q.リリース後の保守費用はどのくらいかかりますか?+
まとめ:高いのはフルスクラッチではなく、「手戻り」
フルスクラッチの費用を考えるときの結論は、シンプルです。
高いのは、フルスクラッチという手法ではなく、手戻りです。曖昧な要件定義のまま走り出せば、パッケージ導入でもフルスクラッチでも、総額は膨らみます。逆に、要件定義に時間を割り当てて見切り発車しなければ、7か月で70機能という短期案件すら、手戻りなく走り切れます。
そして、共通機能のひな型、標準化されたプロセス、既存資産の流用が初期費用を現実的な水準に抑え、再開発ゼロ・保守料を前提としない運用が10年単位の総額を下げていく。これが、当社の考える「フルスクラッチの費用」の全体像です。
費用感が気になる段階でのご相談も歓迎です。お見積りは、まず要件定義から段階的にご提示します。