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COLUMN / 事業承継

二代目が挑む、基幹システムの刷新
焦らず、必要な分だけという進め方

― 承継後の刷新を「賭け」ではなく「確かな一歩」に

事業承継 基幹システム刷新 スモールスタート 二代目・後継経営者向け

私は、父から事業を受け継いだ二代目の経営者であり、要件定義や設計を自分の手で行ってきたシステムエンジニアでもあります。だからこそ、承継した経営者が「システムをどうするか」で抱える悩みも、開発が実際にどこでつまずくのかも、両方の側から見てきました。そして最初にお伝えしたいのは——承継したら急いで刷新すべき、とは考えていない、ということです。この記事の主題は、焦らず、本当に必要な分だけを、確実に。それが10年後も作り直さずに済むシステムをつくる、いちばんの近道だからです。

01 / TIMING

なぜ、承継後の刷新は「焦らない方がいい」のか

はじめに、正直なことをお伝えします。ITを生業にしている私自身、自社の社内システムをきちんと作ったのは、実はつい最近のことでした。それまではExcel中心の運用で、会社の規模的にも、それで何とか回っていたからです。承継してすぐの私がしたのは、システムの刷新ではありませんでした。リーマンショック後の立て直しを最優先に、お客様の獲得と経営基盤の安定に集中し、気づけば十数年が経っていた——というのが実際のところです。

大きな変革は既存社員との軋轢を生むと考えて、最初に手をつけたのは総務や購買といった、紙での運用が多く残っていた領域でした。まずは「データ化する」という、ごく初歩的なところから。そこから採用や就業規則、待遇面の改革を少しずつ進め、経営基盤が安定してきて、やっと余力ができたところで、社内システムの開発に踏み出しました。

承継直後は業務を見直す好機です。ただ、好機であることと、いま急いで大きく作ることは、別の話。承継直後の大きな投資が失敗すれば、「新しい社長は大丈夫なのか」という社内の不安に直結しかねません。

システムを生業にしている人間ですら、順番を守りました。だから私は、「承継したら、まず基幹システムを刷新すべきだ」とは言いません。焦らず、本当に必要な分だけを、確実に。それが、いちばんの近道だと考えています。

02 / SCALE

どこから、どれくらいの規模で始めるか

では、後継の経営者は、何から始めればいいのか。私の答えは明確です。紙やExcelでの間違いを無くせる領域から、小さく始めること。総務・購買のような、手作業のミスがそのまま損失や手戻りにつながりやすい業務は、システム化の効果が分かりやすく、現場も納得しやすい。逆に、要件を固めないまま、現場の要望を丸呑みして一気に作ろうとすると、リスクも投資も一気に膨らみます。

ひとつ補足させてください。「小さく始める」と言っても、その小ささは会社によってまったく違います。10ほどの機能から始めるのが適切な会社もあれば、業務の芯を支えるために、最初から50を超える機能が必要な会社もあります。大事なのは数の大小ではなく、「本当に必要か」を一つひとつ見極めること。必要なら、最初から相応の規模で作ります。逆に、要望として挙がっても、根本原因に立ち返れば不要だと分かるものは、思い切って作りません。

パッケージソフトとの向き合い方も、同じ考え方です。既製のパッケージで足りるなら、それがいちばん堅実です。けれど、業務の芯(コア業務)に、パッケージがどうしても届かない——そこを我慢して、業務のほうを仕組みに合わせて歪めてしまうと、かえって現場が疲弊します。

PACKAGE
既製パッケージで足りるなら、それがいちばん堅実。
CORE
業務の芯に届かないなら、思い切ってフルスクラッチで作り直すのが正解になることも。

そういうときは、フルスクラッチで作り直すのが正解になることもあります。その場合でも、原則は変わりません。根本原因から必要な範囲を見極め、要件を固めてから、段階的に育てていく。だから、たとえ相応の規模の刷新であっても、賭けにはならないのです。

パッケージで対応しきれないコア業務の話。 コラム1「パッケージで対応しきれないコア業務」 →

そして、始める時期に「承継の前か後か」はさほど関係ありません。承継の前後を問わず、本当に必要になったタイミングが、その会社にとっての適期です。承継したから急ぐ、のではなく、必要になったから始める。この順番を守れるかどうかが、最初の分かれ道になります。

03 / PITFALLS

承継後の刷新で、つまずくパターン

小さく始めるとして、それでも承継後ならではの落とし穴はあります。代表的なものは、次の3つです。

TYPICAL PITFALLS / つまずきやすい3点
  • 先代の時代の業務が属人化・ブラックボックス化している
  • 現場(既存社員)の様子見・不信を招いてしまう
  • 現場の要望を丸呑みして「作りすぎ」てしまう

ひとつ目は、先代の時代の業務が属人化・ブラックボックス化していること。長年回ってきた業務ほど「なぜそうしているのか」が言語化されておらず、担当者の頭の中にしかない。これを整理しないまま仕組みに置き換えると、動かなくなります。

ふたつ目は、現場(既存社員)の様子見・不信です。新体制の変革には、期待と同時に警戒も向けられます。現場の実務に本当に効くものでなければ、システムは「使われないもの」になってしまいます。私が総務・購買から、しかもデータ化という地味な一歩から始めたのも、この現場の空気を無視しなかったからでした。

そして最大の落とし穴が、要望を丸ごと積み上げてしまうこと——言い換えれば、「作りすぎ」です。承継直後は決めることが多く、現場から挙がる「あれも欲しい、これも欲しい」をそのまま要件にしてしまいがちです。しかし、ここで立ち止まれるかどうかが、後の成否を大きく分けます。

04 / REQUIREMENTS

成否を分けるのは、結局「要件定義」

私はこれまで多くの開発を見てきましたが、プロジェクトの成否を最も左右するのは、華やかな技術でも開発スピードでもなく、最初の要件定義でした。そして、率直に申し上げると、私がたどり着いた結論はこうです。

最もバグの少ないシステムは、必要最小限の機能でできている。だから、作らずに済むなら、その機能は作らない。

お客様からは、よく「こんな機能が欲しい」とご要望をいただきます。そのとき私が最初にお聞きするのは、機能の中身ではありません。「何に困っているから、その機能が欲しいのですか」ということです。そして、その困りごとが、そもそもどうして発生しているのか。根本原因を、お客様と一緒に特定していきます。

根本原因が分かると、実は、本当に必要な機能は最初のご要望とはまったく違うものだった、ということが少なくありません。要望どおりに作らなかったからこそ、正解にたどり着けた、というケースです。こうした一つひとつの積み重ねは、とても地味です。けれど、この地味な作業こそが、要件定義であわや失敗を防ぐ、いちばんの特効薬だと考えています。

費用を膨らませる一番の原因は、開発そのものよりも「手戻り=作り直し」です。曖昧なまま、あるいは要望を丸呑みしたまま進めると、後半で必ずしわ寄せが来ます。逆に、最初に「本当に要るものだけ」を見極めて、整合性の取れた設計に落とし込めていれば、後からの作り直しは起きません。

手戻りとコストの関係は、こちらで詳しく。 コラム4「フルスクラッチは本当に高い?」 →
05 / BRIDGE

経営を継いだ立場が、要件定義に入るということ

ここが、私自身が一番お伝えしたいところです。要件定義でつまずく典型は、「経営が実現したいこと」と「現場の実務」と「システムの仕様」の三者が、うまく翻訳されないことにあります。経営の言葉のまま開発に渡すと現場とずれ、現場の要望をそのまま積むと経営の狙いから外れる。この翻訳のズレが、要件の甘さの正体です。

経営の狙いを現場の要件に翻訳し、現場の実務を経営の言葉に戻す。その両方を、一人の頭の中で橋渡しできる。

私は、経営を継いだ立場として会社の意図が分かり、同時に、要件定義・設計そのものを自分の手で行えます。だからこそ、「その機能は本当に必要か」を、経営の視点で早い段階に問い直せる。これは「私だから成功する」という話ではなく、なぜ成功の確度が上がるのか、という理由です。

06 / RESULTS

その結果は、実績にも表れています

ある内装業者様のシステムは、2014年に45機能でリリースして以降、十数年で450機能以上へ拡張し、その間の作り直し(再開発)はゼロ。ある食品会社様のシステムは、運用5年で要件定義の不備ゼロ・設計書の不備ゼロを実現しています。

45
機能でリリース
(2014年)
450+
機能へ拡張
(十数年)
再開発 ゼロ

これらの実績の要件定義や設計には、いずれも私自身が携わりました。私は要件定義や設計の仕事が本職で、社長業の合間に時間ができれば、社員と一緒にその作業に取り組んでいます。名人芸の話をしているのではなく、この関わり方そのものが、上のような結果につながっている——そうお伝えしたいのです。

07 / REPRODUCIBLE

とはいえ、属人では終わらせない

こう書くと、「その社長がいないと成り立たないのでは」と思われるかもしれません。そこは、はっきりお伝えしておきます。私が大切にしているのは、名人芸ではなく、再現できる進め方です。

曖昧な要件定義をしない、必要最小限を見極める、整合性の取れた堅実な設計に落とす、設計どおりに開発してテストで裏づける——この一連の流れを、私個人の勘ではなく、チームで再現できる方法論として積み上げてきました。だからこそ、リリースして終わりではなく、その後も作り直しなく育て続けられます。一人に依存する会社ではなく、確かな進め方を持つ会社であること。承継後の長い付き合いを考えれば、ここはむしろ安心していただきたい点です。

08 / SINCERITY

誠実なやり取りが、長く残るシステムをつくる

最後に、私が最も大事にしていることをお伝えします。私たちは、システムを売ることを目的にはしていません。お客様と一緒に考えて、不要だと思えば「これは要りません」と正直にお伝えする。逆に、本当に必要だと思う機能は、こちらから提案する。そういう会社と会社、突き詰めれば人と人との誠実なやり取りこそが、中長期的なパートナーシップの土台だと考えています。

必要のないものまで作れば、その分だけ費用がかさみ、バグの温床も増える。だから「作らない」という提案ができることは、私たちにとって、正直さの証でもあるのです。

09 / CONCLUSION

二代目の一歩を、確かな成果に

事業承継のタイミングの見直しは、正しく順番を守り、要件を見極めれば、「失敗が怖い賭け」ではなく、「焦らず踏み出せる、確かな一歩」に変えられます。確かな芯から、本当に必要な分だけを、確実に。その積み重ねが、10年先、20年先まで長く残るシステムになります。

私自身も事業を受け継いだ立場です。代替わりの重みも、失敗できないというプレッシャーも分かる伴走者として、まずは現状の課題からご一緒します。打合せがリモートで可能なら、名古屋・横浜・東京以外でも大歓迎です。

アイピーシー株式会社 代表取締役社長 池田直人

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承継後の一歩を、
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